会いたくて

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五条さんに会いたいと思っても、私は彼のことを何も知らなかった。この前のように、通勤途中の人ごみを探してみても、彼の姿はなかなか見つけられなかった。 私から会いに行くことは出来ないのなら、彼の方から来てくれるのを待つしかない。 どうすれば、会いに来てくれる? 私が溺れそうになった時、駅の階段から落ちそうになった時、そんな危険な場面ではいつも助けに来てくれて、その決して死なない体で私を守ってくれた……。 私は考えた末に、一つの賭けに出た。 アパート近くの小さな公園。夜遅く、誰もいない公園に私は立ち続けた。いつもなら夜の公園になど、怖くて近道にも使わない。だけど、五条さんが会いに来てくれる方法を、他に考えつかなかった。 でも、ものごとは、そう簡単に私の思っている通りにはなってくれない。 夜が更けてくるに連れて、寒さが身にしみて、恐怖を伴う寂しさと相まって震えてくる。時折通りかかる人から、不審そうな目で見られて、体がすくむ。 雲行きの怪しかった空から、とうとう雨も降り出して、居場所がなくなってくる。五条さんが来てくれる気配も感じられず、途方にくれた。 私はなにをしているんだろう。こんなバカなことをしていたら、風邪をひいて仕事に行けなくなる。 そう訴えかけてくるもう一人の私がいたけれど、自分で自分をどうしたらいいのか、分からなかった。 五条さんに会って、私の中に溢れてくる想いをどうにかしてもらいたかった。
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