会いたくて

3/3
前へ
/24ページ
次へ
雨が髪を伝って、雫となって落ち始めた時、涙も一緒になって零れて落ち始めた。 堰を切って流れだした涙は、自分の力では止められなくて、私は子どものように泣きじゃくった。 「……こんなところで、ずっと……誰かを待っているのか?」 その時、暗がりの中から心に染み入る声が聞こえた。 まだほんの数回しか言葉を交わしたことがないのに、それは私の記憶に刻まれた声だった。 視界が涙で滲んで、目の前に立つ五条さんが幻のように感じた。 「……あなたが来てくれるのを、ずっと待っていたんです」 「僕に……?」 首をかしげて問いかけてくる五条さん。私は、自分の心をありのままに伝える勇気をかき集めた。ここで、適当な言葉でごまかしてしまっては、こんなことをした意味がない。 「……あなたに、抱きしめてもらいたくて……」 私のその言葉を聞いて、五条さんも息を呑んで私を見つめ返した。それから一歩踏み出すと、そっと私を包み込むように抱きしめてくれた。 その瞬間の五条さんの匂い、この胸の広さと、この腕の力強さを、私は知っていた。千年の時を超えて、私の命の中に眠っていた記憶が呼び起こされる。 「……お会いしたかった……悠道さま……」 思わず、私はそう呟いていた。 「ああ……、トウコ。僕も会いたかったよ……」 五条さんは、私を抱きしめる腕にいっそうの力を込めた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

188人が本棚に入れています
本棚に追加