おやすみなさい

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五条さんの言っていたことが荒唐無稽な嘘ではなかったことは、それから十年もすれば判明した。 私は出会った頃のように若くはなくなり、歳を重ねていくのに、五条さんはいつまでも若々しかった。とても不思議なことだけれど、こんなこともあるんだと思った。 周りの人に怪しまれないように、私たちは数年ごとに住む場所を変え、仕事も変えた。 初めは、若い夫婦、それから私が年上女房。母親と息子、お祖母さんと孫。 転居を繰り返し、訪ねる街ごとに、私たちの関係は周りの人には違って見えただろう。 それでも、五条さんは私がどんなに衰えていっても、変わらず私を愛してくれたし、側にいて守ってくれた。 そして――、私は病に倒れ、余命いくばくもなくなった。 体が動かなくなって、ベッドで寝たきりの生活が余儀なくなっても、五条さんは献身的に私の介護をしてくれた。 私の一生は、幼い時から五条さんに見守られて、五条さんに恋をして、共に手を携えて生きてこられて、どんなに幸せだっただろう。 ただ思い残すのは、ひとつのことだけ。 「私が死んでしまったら、あなたはまたひとりで生きていくの?」 この問いに、五条さんは出会った時と少しも変わらない顔に、少し寂しい色を浮かべて微笑んだだけで、なにも答えてくれなかった。
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