千年を生きてきた人

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「この前は、助けていただいて、ありがとうございました。お怪我の方は、いかがですか?」 丁寧に頭を下げて、気になっていたことを尋ねてみる。 その人は困ったような雰囲気を漂わせて、ほのかに笑みを浮かべると、髪の毛をかき上げて血の出ていた場所を見せてくれた。すると、そこに怪我をした形跡は全くなくなっている。 まだ私の膝小僧の方の傷は、まだ生々しく残っているというのに。 「……どういうことですか?」 訳が分からず思わず問い直してしまうと、その人はまた私をジッと見つめて……少し考えた。 「もう少し、落ち着いて話せるかな?」 そう言われて、手近にあった隠れ家のようなカフェに場所を移した。 「……すぐには信じてもらえないと、思うけど……」 そう切り出して話し始めた内容は、その通り、到底信じられないものだった。 彼は特殊な体質で、どんな怪我をしてもすぐに治ってしまうし、病気もしないらしい。それどころか、年も取らず、死ぬこともできず、……千年前から、ずっとこの姿のままで生き続けている。 「信じられないのは無理もないけど、本当のことだよ。もともとは僕は五条悠道(ひさみち)という貴族の子弟で、朝廷から官位ももらっていたんだ」 真顔で…というより深刻な表情で説明をされて、いささか気色が悪くなった。
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