千年を生きてきた人

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「それで、僕たちは計画を立てた。桐子が父親に、入内の前に長谷寺詣でに行くことをねだったんだ」 「長谷寺詣で…って、『源氏物語』にも出てくる?」 透子が相づちを打つように問いかけると、その五条という人は頷いた。 「さすがに君は、専門で学問してただけあって、よく知ってるね。そう、その長谷寺詣での旅先で、僕は隙をついて桐子を連れ去った。嵐の夜に、馬を駆けて。雨に打たれながら、やっと桐子を腕に抱けて幸せだった……だけど。雷に打たれたんだ。桐子も馬も死んでしまって、僕だけが生き残った。そのとき桐子が今際に、意識を取り戻して言ったんだ」 『私は死んでも、必ず生まれ変わるから。生まれ変わったら、またあなたと恋をして……一緒になりましょう』 「だから僕も死のうとした。来世で桐子と一緒になれるように。刀で突いたり、崖から飛び降りたり。でも、どんな手段を使っても死ねなかった。それどころか、しばらくして年も取れないことも分かったよ。不思議なことだけど、きっとあの雷が原因で……僕はこんな体になってしまったんだと思う」 こんな荒唐無稽な話を、どうやって信じればいいのだろう。 「それで……どうして私が、その平安時代の桐子さんの生まれ変わりって分かるんですか?」 半ば呆れながら、それでも、一応確かめるために尋ねてみた。
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