夢の中の出来事

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あの日、家路で電車に揺られながら少しだけ心が残っていた。あの五条さんの眼差しは、本当に深くて切なくて……。思い出すと、私の心まで切なくなる。 私の心残りは、最初は小さなものだったけれど、時が経つにつれて私の心の大きな部分を占めるようになっていった。 都会の片隅で起こったほんの些細な出来事は、アパートと会社を行き来するだけの、退屈でささやかな生活を送っていた私にとっては、大きな事件と言ってもよかった。 五条さんは今日もまた、あの切ない目で私を探しているんじゃないか――。 通勤途中、街角の人ごみの中に立ち、無意識に五条さんの姿を探していた。 だけど、あの深くて切ない眼差しは探し出せず、あの出来事自体も、夢だったように感じられてくる。 そんなふうに感じ始めて、あの出来事も時とともに流されて行こうとしていたある夜、私は夢を見た。 叩きつける豪雨、暗闇を貫く稲光と地響きするほどの雷鳴。 激しい雨の中、五条さんは〝狩衣〟と言われる昔の装束を着ていて、私を見つめながら、取り乱して泣いている。 私は抱きしめられていて、息が苦しくて、体が動かなくて……。 何とかして私は言葉を出そうとするけれど、うまくいかなくて……。
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