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アイツが帰ってくる、母さんを殺したアイツが。
(今日こそ仕留めてやる!)
暗い暗い洞穴の奥、まだ小さな山犬の子が岩陰に身を潜めている。体こそまだ小さいが、その目には確固たる意思が宿っていた。
(外から漏れる月光がアイツの影で途切れた瞬間が勝負だ)
いくら想いが強かろうと、相手はあのはぐれ狼エタラカだ。自然と体は震え、貧相な両手足はその構えを保つのに精一杯だった。
そして一瞬、ほんの一瞬だけ僅かに届く月明かりが途切れた刹那、岩陰から飛び出した小さな影が、狩りを終え自らの寝床に戻ってきた狼の首筋を捉えた……かに見えた。
ドスン!!
「ギャン!」
だが、コケの這う湿った岩肌に叩き付けられたのは、山犬の子ウォセの方だった。
「危ねー危ねー。俺様の非常食の分際で、姑息な真似をするじゃねぇか……。でもよ、今日のはなかなかだったぜ」
「痛てて……うるさい! クソ狼!」
「発想までは良かったんだがなぁ、ああも殺気を漲らしてちゃあな。俺様じゃなくても気が付くってもんだぜ、僕ちゃんよぉ」
「次は、次こそは絶対お前を殺してやるからな!」
「わかったわかった、ピーピー言ってねえで飯にしようぜ。俺様は腹が減ってんだ。あんまりガタガタしつけえと、お前から喰っちまうぞ!」
「わかったよ、ちぇ」
エタラカは、今しがた仕留めてきた肉塊をウォセの前に咥え投げた。
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