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ある日の午後、ウォセはいつものように狐の子ピリカと修行と言う名の追いかけっこに興じていた。
いくら山犬の子と言えど、身軽な子狐を捕まえるのは中々容易ではない。
「やいやいウォセ! お前それでも山犬かよ!今日の勝負も俺の勝ちみたいだな」
「クッソー、だいたい素早しっこ過ぎるんだよピリカは」
「手加減してちゃ修行にならないだろ? ねぇシアプカ様……シ、シアプカ様!? え、え、え、えーーー、いつの間にこちらへーーー!?」
慌てふためくピリカの傍らに、いつの間にか年老いた蝦夷鹿が立っていた。ウォセの知る蝦夷鹿の倍はあろうかという巨躯と大角、威厳に満ちた立ち姿にその場の草木や虫達ですら緊張していた。
「おいおいデッカイ鹿の爺ちゃん気をつけなよ? こんなとこに居るのエタラカに見つかったら、たちまち食べられちゃうぞ?」
「バカバカバカバカ!! 何て口の利き方すんだよ! いつもこんな辺鄙なトコに隠れてるウォセは知らないかもしんないけど、シアプカ様と言えばそれはそれは偉い、この森の語りべ様なんだよ!」
「えーーーー語りべ様だってー!?それを早く言えよピリカ!」
「失礼致しましたシアプカ様! こいつはチビでバカですが、根はとってもいい奴なんです!どうか勘弁して下さい!」
「ちぇっ、ピリカのほうがオイラよりもっとチビじゃないかぁ」
ウォセの言葉に更に慌てふためいた様子のピリカが、鼻を突き刺す勢いでウォセの頬に顔を寄せた。何やら小声で詰め寄っている。
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