繰り返す記憶

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また秋がやってきた。 どこからか金木犀が甘く香る頃、 必ず思い出す記憶がある。 懐かしくて、温かく、 それでいてどこかもの悲しい記憶。 夏目古都(なつめこと)は 冷たい風を切りながら 自転車を走らせた。 秋になると少し早めに家を出て 学校へ行く途中にある 大きくて真っ赤な紅葉の木の 前で自転車を止めて しばらくの間眺めるのが 日課になっていた。 今日もいつものように 自転車を止めて眺める。 冷たい風が吹き抜けると 落ち葉がカサカサと舞い上がり どこからか金木犀の香りを連れてくる。 そこでいつも思い出すのは 小さい頃の不確かな記憶だった。 小さな私は祖父と手を繋いで 真っ赤な紅葉の並木道を歩く。 落ち葉がカサカサ鳴って 嬉しそうに足踏みをする私。 祖父はふと立ち止まると 遠くを指差して 私に何かを言って微笑む。 そんな記憶。
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