第1章 天才というか怪物

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ここは鹿児島県にとある離島。 人口1万人に届かず、島を一周してもフルマラソンにはならないほど小さな島だ。 そんな小さな島なだけあり、日が昇る前のこの時間帯は街灯が少ないこともあり少々暗い。 そして朝の早い時間なだけあり、車などの音も一切聞こえない道路では1人の少年が一定の速度を保ったまま走り続けている。 南の離島なだけあり、4月を迎えたばかりの割には比較的暖かい気候なこの時期に少し暑いのでは?と思うジャージ姿で走る少年は、今年中学生になる予定の鎌倉智也だ。 170センチを少し上回る身長で既に大人顔負けの厚みがある体格をもつが、走り続けて少し苦痛な表情を貼り付ける顔はまだ幼さの残る顔立ちだ。 「……とりあえず今日はこんなもんでいいかな?」 少しずつペースを落とし、とうとう歩き出した智也は声変わりし始めたのか少しかすれ、しかしまだ高めの声で呟いた。 「てか、今何時だろ?………やば、もうこんな時間か、早く帰らないと学校の準備なんもしてねーや。初日から遅刻とか洒落にならん」 ゆっくり歩いて息を整える智也は、右腕につけている腕時計を確認すると、思っていたより時間が経っていたのか焦ったように自宅へ向かって駆け出した。 ちなみに、智也が所属するサッカー部は今日から正式入部が認められ、一年生も朝練が開始されるのだ。 「ふぅ、なんとか間に合った」 「初日から遅刻ギリギリとか危ないやつだな」 急いで帰宅して朝練に向かった智也は朝練開始ギリギリに間に合った。 ダッシュで学校に向かったため乱れた息を整える智也の頭を誰かが軽く叩きながら声をかけてきた。 「すみません。今日から朝練なの覚えてたんすけど、いつもの感覚で朝から走ってたらギリギリなっちゃいました」 「間に合ったから別にいいけどさ、明日から余裕持ってこいよ。ボールとか色々準備あるんだからさ」 「はい」 声をかけた人物を確認すると、智也は叩かれた頭をさすりながら軽く頭をさげ、ちょっとおかしい敬語で答えた。 中学一年生にしては大きめの智也より少し小さなこの少年は、智也が今年から所属する荒木中学サッカー部のキャプテンで三年生の村上裕太だ。 智也が裕太に軽く注意されていると、朝練開始の時間になったのか他の部員達から声がかかり、ようやく智也にとって最初の朝練が始まった。
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