第1章 天才というか怪物

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(正直、あいつなんでこのサッカー部にいるんかな?1人だけレベル違うんだよなー。まあ、実績からして段違いなのは間違いないんだけどな) 放課後練習が着々と進み、監督の安藤は練習を見ながらふと思った。 荒木中学サッカー部は離島の中学校なので、試合経験などは少ないながら毎年地区大会を勝ち抜き県大会でもベスト8には顔を出すチームである。 そんなチームを10年以上指導してきた安藤から見ても、他のメンバーに比べて頭数個分抜けている存在がいた。 その選手は、一年生ながら既にフィジカル面ではサッカー部でもトップと言って問題ないほどレベルが高く。 何よりこの年代のプレイヤーだと、身体能力が高い場合フィジカルに頼りっきりなことが多いのだが、基礎技術も段違いだ。 (親の転勤の都合とはいえ、ナショナルトレセンに選ばれるような選手がうちのチームに参加するとは思ってもみなかったが、これなら県大会ベスト4以上、そして全国大会も目指せるかもな。頼むぞ。智也) 安藤は一対一の練習で、三年生を苦もなく抜いていく智也を見ながらほくそ笑む。 そして、安藤が思っていたように智也は小学生時代にナショナルトレセンに選ばれた経歴をもつ、いわばサッカーエリートな選手である。 親が転勤したこともあり、離島であるこの島に引っ越してきた智也だが、何事もなければ今頃Jリーグの下部組織であるジュニアユースか、強豪クラブチームに入っていた可能性が高かっただろう。 (サッカーできるならチームはどこでも問題ないや) それでも、智也本人は特に気にした様子もなく、むしろ県大会ベスト8に入れる程度のチームの方がやりやすいとも思っていた。 その理由は智也のプレイスタイルにあった。 普段から割と温厚なタイプの性格な智也だったが、そのプレイスタイルは性格とは真逆のワガママでエゴイストであった。 数的不利でも個人技による突破は当たり前、そして何よりどこまでもゴールに対して貪欲だ。 ゴール付近以外は割とパス回しにも参加するが、自分でゴールが狙えると判断すると周りのプレイヤーがフリーでも関係なくシュートまで持っていくなど、日常茶飯事である。 そんなわけで、組織的なサッカーをするであろう強豪クラブなどでは自由にプレイできない可能性を感じていた智也は、今のチームに特に不満はないようだ。
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