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それから、二十年が経った。
夜中、裕太は妙な気配を感じて目覚めた。部屋の中は、暗闇に包まれている。窓からは、月の光が射していた。
そして、部屋の隅から自分を見つめる目。
驚愕の表情を浮かべ、裕太は起き上がった。この部屋に入れる者など、いるはずがない。
だが、二つの目はそこにあった。緑色の光を放ちながら、真っ直ぐ裕太を見つめている。裕太は恐怖のあまり、動くことが出来なかった。
だが、その目はどんどん近づいて来る。
と同時に、聞こえてきた声。
「お前、あたしの事を忘れたのかニャ?」
裕太は愕然となった。目の前にいるのは、尻尾が二本ある黒猫だったのだ。この部屋に、猫が入れるはずがない。いや、それ以前に猫が喋るなど有り得ない。
だが、その時……裕太の頭に昔の記憶が甦った。二十年前に、その有り得ないことが起きたではないか。
記憶の底に封じ込めていた思い出。色んな人間に話したが、誰も信じてくれなかった。そればかりか、みんなは裕太を嘘つき……いや、キチガイ呼ばわりしたのだ。やがて裕太は精神病院に入れられ、少年時代を病院で過ごす羽目になってしまった。
退院した後、裕太の人格は完璧に歪んでいた。
さらには、人生すらも――
「ミーコ? 本当にミーコなのか?」
呆然とした表情で呟く裕太。だが、ミーコは素知らぬ顔だ。悠然とした態度で毛繕いを始める。
ややあって、ミーコはじっと睨み付けた。
「お前、あの時はまだ可愛げがあったニャ。でも今は、本物のクズになってしまったニャ。あたしの言う事を、全く守らなかったようだニャ」
ミーコの言葉に、裕太は下を向いた。
「何だよ、その言い方。あの時、助けなきゃ良かった……とでも言いたいのか?」
「別に、そんなこと言う気は無いニャ。お前が人間の世界で何をしようが、あたしには関係ないニャ。けど、もう少し上手くやっていく事は出来なかったのかニャ?」
「だってよお、医者がミーコの事を幻覚だとか言いやがった――」
「幻覚でも何でも、言いたい奴には言わせておけばいいニャ。肝心なのは、お前とあたしが出会えて交流した思い出だニャ。それを、お前がどう感じたのか……そこじゃないのかニャ? あたしとの出会いは、お前にとってそんなに薄っぺらなものだったのかニャ?」
「いや、違う……大切な思い出だよ」
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