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室内でも少々蝉の音が聞こえる。
普段はやかましいと思うがヘッドホンを付ければロックな曲の良い飾りになる。背後には涼しい冷気が当たる。
周囲は無の空間のように静けさがある。
図書室、これ以上に落ち着く場所はない。特にこれからの時期は家で扇風機を浴びてぐうたらする生活よりも、クーラーのかかる図書室で勉強をしたり、本を読む方が充実しているのではないだろうか。
僕は勉強がキリの良いところまで終わり、集中力も持たなくなったため音楽を聴きながら、本を1ページ1ページめくっていく。しかしその本の内容はあまり頭には入らない。
なぜならその本の表紙に明朝体で書かれた文字は職業辞典だからだ。高2になるとそろそろ進路を決めなければいけない時期となる。進学にしても何処の道に行くかで、学科が変更する。
僕は真面目君と呼ばれることがあるが、それは性格とメガネだけだ。成績を見ると普通より悪い。
その為、何になりたいかという視点ではなく何になれるかという視点で考えがちである。それも何になりたいというのがパッとしないせいなのかもしれないが。
僕は溜息をつき席を立って職業辞典を棚に戻した。
僕にも昔夢を見た時期はあった。
何の夢だったかは記憶の隅で眠っているが、あったことは確信している。
夢のことを思い出そうとするとセットで1人の目を輝かせる少女の横顔も浮かぶ。
これも同様、記憶の隅だ。
「雪、おい、雪、何ぼーっとしてんだよ。」
僕はその大きな声がヘッドフォンから流れる歌詞ではないことを把握した。
声の主は唯一と言っても良い友達の海【うみ】だった。
大きくキリッとしている目、180センチの高身長、半袖カッターから見える筋肉、見下ろされているこの状況は周りから見れば絡まれているように見えるのだろう。
しかし、僕は160センチのためこの身長は何とも羨ましいと素直に思う。
彼は社会で言えば、イケメンの分類にも入る。女子の皆さん、注目!しかもこのイケメン、成績良くて運動神経抜群!それに何といっても彼女なし。
どういうことか、告られても全て振るようにしているらしいが。
そんな彼とは中学校からの友達だ。
こんな僕と真逆のタイプの彼が友達なのにはきっかけがあった。
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