0人が本棚に入れています
本棚に追加
中学1年の終わり頃、1年間の思い出を動画にする企画があり、僕は動画の編集を行った。それはもともと写真、動画の撮影と編集、劇の脚本を書くのが好きだった僕にとっては学校で唯一楽しいことだった。
文化祭の劇の脚本も動画も評判だったが、僕が作ったことはみんな気づいていなかった。そもそも気付こうともしなかった。なぜなら作成しているのはクラスの端にいるような真面目君だったからだ。みんなにとっては僕は陰の存在だったのだ。
しかし、クラスのムードメーカーで人気者の海が近づいてきた。
陰が濃い陰に変わった瞬間だった。
海はクラス劇の主役を演じるなど表に出たいタイプの人間で、自分の動画を撮りたいと言った。つまり、僕にその撮影と編集を頼んだということだ。
僕は断った。
しかし彼は何度も頼んだ。
それでも何度も断った。
僕は風景等の写真、動画が撮りたいんだ、僕じゃなくてもいいじゃないかと。
でも彼は譲らなかった。
「お前が撮る、お前が編集する、お前の作る動画が好きなんだ。お前の動画が最高なんだ。」
僕はそんな彼のストレートな想いを思わずキャッチしてしまった。
そして海と僕で、動画を作成することになり、いつも一緒にいる本当の光と陰の関係に至った。
「え?!…じゃねえよ。今日雪が勉強するっていうから、動画撮影するの諦めたんだぞ?」
「あ、ごめんごめん。」
「何考えてたんだよ。」
「別に…」
「いえよ!親友だろ?!」
ちょっと向きになる海に僕は戸惑った。
親友だからと言うというのはよく理解できない。
「いや、僕、何になりたかったのかなと思ってさ。」
「将来の夢かー。そろそろ決めなきゃだもんな。」
「あぁ…」
「ま、いいから、早く撮り行こうぜ!」
こいつは将来について考えているのだろうかと軽く考えてそうな海を見て疑問に思った。
強引に手を引かれ、図書館を出た。
図書館と外の温度差は激しくクラクラした。
腕を掴まれた状態で走らされる。
海の額に汗が溢れた。
最寄りの駅に着くと出発直前の電車に駆け込む。乗車した瞬間自動ドアがしまった。
もうここまで、連れてこさせられた以上諦める以外選択肢はない。
最初のコメントを投稿しよう!