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確か今日は最近売れている店の紹介だった気がする。
「行きます、3.2.1アクション」
僕はアクションをきる。
「今日は、ここ、×…@/#◎に来ています!!…」
動画の撮影が始まる。
実際、撮り始めるといつも元気な海を撮影するのは嫌いではないと思う。
最初の方は1人劇っぽい動画だったが、海がつまらなくなったらしく、最近は紹介動画が多い。
海をアップして撮影した後、海が差す店にピントを合わせた。すると店を通り過ぎる1人の見覚えのある女子高生に焦点が当たった。
誰だったかな。
喉に引っかかる魚の骨のように気持ちが悪い。
「おい、なにしてんだよ。
今日ぼーとしすぎ!はい、もう一回録り直しー!」
その海の声で、また我に返させられる。
横切った彼女に自分の目のピントが行くと同時に無意識のうちにカメラも彼女を追いかけて撮影してしまっていたのだ。
彼を撮影しなければどうやら今日は帰れそうにないので、考えるのをあきらめた。
帰り道を歩きながらあの彼女について考える。
街灯に照らされた歩道は、安心感がある。しかし考え過ぎたせいか、少し頭痛と起立性低血圧に襲われる。道が少し歪む。
一度止まり目を瞑り脳を落ち着かせた。僕は家に帰り睡眠を早めにとることにした。
朝、頭の痛みは消え去っていた。
学校に行くと、早速海が寄ってきた。
「雪、見ろよー、昨日載せた動画が早くも視聴回数50回超えてるぜ」
「ばか。50回でそんな喜ぶな。あと校内ケータイ禁止な。」
僕は相変わらず、海の熱い声に冷水をかけるように冷静に言った。
「そんな固いこと言うなよー。先生だってまだ来ねーよ。」
「海」
冷水を受けず、軽いことを言っている海の背後から、影を感じた。
「ん?」
「背後。」
「え、」
海は軽く背後を向いた。
「碧生何してる」
クラスの担任の佐々木先生が、太い声で海に話しかけた。
「あ…。」
海は止まって汗がひとしずく流れた。
先生は海のケータイを取り上げた後
僕に言った。
「千城(ちしろ)、ちょっといいか。」
「あ、はい。」
僕はしぶしぶ相談室に連れて行かれた。何か悪いことをしたのかと不安が過ぎる。先生の閉めるドアの音が小さいことから、説教ではないと自信を持ち、安心した。
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