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「お待たせー。」
ほつれ髪を耳の後ろにかける彼女から、バーガーとは違う柔軟剤のいい香りがする。
「はい…。」
「久しぶりだね。」
「そ、そうですね…。」
もしかしたら先輩かもしれないと警戒した僕はとりあえずここは敬語を使い相手の会話にのってみる。
「なんで敬語?
昔はよく遊んだよね、一緒に映画いっぱい見たしさ。あー、可愛かったなー、オードリー・ヘップバーン」
敬語が少し気になった様子だったが彼女は話を続けた。
「オードリー・ヘップバーン?!」
僕はその懐かしい名前を聞き返した。
「そうだよー。」
なんで驚いているのかとクリクリお目目で不思議そうにこちらを見る彼女。
小さい頃から、ローマの休日を見てたのか…。
ローマの休日
1953年のアメリカ映画だ。
僕は息を呑む。そして少し考えた。
いや、見た。
そう、確かに見た。
確かにいつも隣にいた。
テレビを目の前に、目を輝かせる彼女の姿がくっきりと蘇ってきた。
そして記憶の隅から目を覚ました。
「もしかして桜?」
「さっき言ったじゃん。」
自信はあったが信じられないことから少し弱気で聞くと、当たり前のように彼女は答えた。戻ってきたのかと聞くと、今思い出したのと怒られてしまった。
しかしその後は2人とも懐かしくて目を合わせて笑った。こんなに心地よい感覚は久しぶりに味わった。思い出したおかげで気分も爽快感がある。
帰り道の橋を歩きながら、彼女が今年の春からこちらに戻っていたことや、アルバイトをしていることなど話を聞いた。
そして今度は彼女から質問を持ちかけた。
「ねえ、今も映画好きなの?」
「うん、好きだよ。」
最初の質問にしては意外な質問だった。しかし、僕はこの質問にはスムーズに答えることができた。
そして、再会した嬉しさでつい、これから家で映画を観ようと誘ってしまった。
「いいの?」
「いいよ、お母さんも驚くと思し。」
彼女が断る様子のない返事をしたため、嬉しくてつい素早く応答をしてしまった。
月は薄っすらと空に現れ始めていた。
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