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家に帰ると、母は案の定驚いた。
違う意味の驚きだったが。
「雪に彼女?!」
「違うよ、ほら、昔近所に住んでた桜!」
僕が強く言うと、先程より驚いた様子だった。
「え!桜ちゃん?!」
「はい。お久しぶりです。」
桜は頭を下げた。
「大きくなって、立派なお嬢さんね。」
母は感動したのか少し涙がでていた。
「何泣いてるんだよ。」
僕は母に言い、桜は笑っていた。
すると前の方で部屋のドアから顔を出す中学生の制服を着た妹の姿に桜が気づいた。
「え、もしかして、つららちゃん?」
「そうですけど、どちら様ですか?」
桜は近づいて声をかけたが、つららはあの時は小さかったため覚えてないような反応で他人行儀だった。
「私、昔、近所に住んでた、桜!って言っても覚えてないか。」
「え、桜ちゃん!久しぶりー!すごく綺麗だね!」
桜は覚えててくれたことが嬉しかったのか満面の笑みを浮かべた。
その後僕の部屋で桜と映画を見た。
子供の頃のように、電気を消し、DVDをセットし、トッポの封を開ける。そこはポップコーンではないのだ。なぜだかは知らないが。
僕達が再会できたこの日に選んだ映画は、やはり「ローマの休日」だった。
彼女の横顔を見ると昔の彼女の姿が蘇る。それと共に大人へと成長している彼女に気づいた。でも、輝く目だけは昔と何も変わらなかった。
映画を見終わったあと、彼女の座ってる前には紙くずが散らかっていた。
「泣きすぎ。」
僕は呆れてゴミ箱を渡す。
「だって…切ないじゃん」
涙をティッシュで拭き鼻を?み、トッポを加える彼女の姿に少し笑ってしまった。
「ねぇ、約束覚えてる?」
彼女は切り替えて話を始めた。
「約束?」
「いや、ううん、なんでもない!」
僕がまだ何か忘れていることを象徴する一言だった。
「夕食まで一緒に呼ばれてありがとうございました。」
すっかり時計の針が9時を表した所で桜は帰ることにした。
「また来てね。」
「はい!雪、またね。」
「じゃあな。気をつけて帰れよ。」
僕と母と妹は玄関で手を振る桜を見送った。
彼女がドアを閉めた後、隣に居た母が口を出す。
「気をつけて帰れよ、だけ?普通、送ってくよとか言うんじゃないの?ふーん」
「お兄ちゃん、情けない。」
未練たらしく言う母、憎たらしく言う妹に負け、桜の後を追いかけることにした。
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