キスマニア

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・ ある店の前に来ると 暖簾(のれん)をくぐれば、威勢のいい声が聞こえてくる 「らっしゃい!! お、久しぶり!カウンター空いてるよ!」 「あぁ、ごめん。 ちょっと今日は個室にしとくよ 服装がラフ過ぎるからさ‥」 さすがに裸の大将ルックの苗をカウンターに座らせるわけにはいかない。 晴樹は暖簾越しに中の人にボソボソっと声をかけた‥ そして、店の人が晴樹達を個室へと案内する‥ 店の中は酸味の聞いた匂いと檜の香りが、すがすがしく漂っていた。 掘りごたつのテーブルにつき晴樹は苗にメニューを見せた。 アワビ、大トロ、ボタン海老、踊り 様々な魚介名の下には値段らしきものが書いていない。 ここは銀座の一角にある隠れ家的、超高級寿司店。 種類の少ない、おしながきには常連さん専用のメニューが用意されているせいもあった‥ 「載ってないのも頼めば出てくるよ‥わからなきゃお任せにしとくか?」 晴樹の助言に苗は頷いた。 頼んだ料理がどんどん運ばれてくるが、苗はあまり箸が進まない‥ 「どうした? 寿司嫌いだったか?」 晴樹の問いかけに苗は首を振り、そしてシクシクと泣き始めた。
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