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ラーメン屋の帰りに、たまたまチップ次長の部下の男の人を見かけた。
国分くんにハマってるあの人だ。
もう帰るところなんだろう。同じ会社の女の子と二人で歩いている。
チップ次長はほんとにしょっちゅう店に来るので、入れ替わりで連れて来る部下の人の顔も大体は覚えてる。
この二人だけで来てるのを見かけたこともある。
あ、二人腕組んでる。
もしかしたら付き合ってるのかな。
お似合いだ。
なんかちょっとほっこりする。
あ、こっちに気づいて会釈してくれた。
オレの顔覚えてくれてたんだな。
ちょっと嬉しくなって会釈を返した……途端にその男の人が慌てて彼女の手を離した。
……え……?
今……オレの後ろの国分くんに気づいて離れた?
あれっ?
気のせい?
国分くんもその男の人に気づいて会釈をしている。
うーん。
今のなんだったんだ。
◇
数日後、あの部下の男の人が一人で来店した。
一人なのに、座敷の端のスペースを希望。
一人飲みが恥ずかしいのかな…‥なんて思ってた。
けど、あれ………。
国分くん………。
建て具でよく見えないけど、からあげで餌付けされてない?
戻って来た国分くんの唇がほんのちょっと油でテラっとしている。
妙に張り切って国分くんがチーズフライを運んでるけど……ああ、やっぱりあの席だ。
国分くんの顔しか見えないけど、ニコニコで口を開けてる。
ちょっと焦らされて、さらに笑みを深くした。
国分くん……!!!!
大丈夫!?
「ああ、やっぱり伊良部くんにはバレちゃったか。他の人には内緒にしてよね」
戻ってきた国分くんが恥ずかしげに言った。
真面目で常識的な国分くんだけど、揚げ物の誘惑にはめっぽう弱いようだ。
「からあげ以外に何が好きなの?って聞かれたから、チーズスティックって言ったら注文してくれて……。でもそういうのはもうダメですからねって清司さんにはちゃんと言ったから」
え……清司さんって、名前まで……。
「バイト中のつまみ食いがダメなら、今度一緒に飲みに行く?って言われたんだけど、伊良部くんも一緒にどう?」
「え……飲みに行くの?」
「いや、お客さんとはいえ良く知らない人と二人でとか怖いから、伊良部くんと一緒ならいいかなって」
「あーうーん。その、どうだろう……」
「だよね、やっぱり。そう思ってファストフードくらいならって言ってる」
「おおぅ。そうなんだ。ファストフードなら行くのか……」
清司さんというサラリーマンのお兄さんに、ポテトで餌付けされてる国分くんが容易に思い浮かぶよ。
あ、食器を下げに行った国分くんのポケットが膨らんでる。
「伊良部くん、そこのお客さんにボンタンアメ貰っちゃった。あとで食べよう」
ニコニコ笑顔だ。
国分くんは奥様たちにおやつを貰う事も多い。
あ、清司さんというお兄さんがレジに……おお珍しく国分くんがレジに入った。
会計が終わって清司さんが国分くんにペロペロキャンディを差し出した。
でも、国分くんあんまりキャンディは好きじゃないんだよね。
どうする、国分くん。
あ、キャンディを受け取って……包みをあけて……おっっおおおお!?
清司さんにくわえさせた。
国分くん……大丈夫?
清司さんの顔がニヘニヘだけど……。
「僕、キャンディはあまり好きじゃないんです」
「そっか。じゃドーナッツとフライドポテトだったらどっちがいい?」
「どちらかというとポテトのほうが好きです。伊良部くんも一緒でいいですか?」
「もちろん」
ふふふふ……と、二人ほのぼの笑い合ってるけど……。
なんか、今、勝手にオレの予定が組まれたよね……。
……ま、喰うに困らないってのは、いいこと……なのかなぁ。
《終》
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