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「ん~~~。ハッロー、エブリワーン!ボクの名前は『ぴのきお』。ヨーロシクネー!」
真司は唖然とした。
自らを『ぴのきお』と名乗るそいつは半袖短パンという子供のような格好に身を包み、剥き出しの肌には明らかに人間とは異なる木目の模様が浮き出ている。さらに頭には黄色いチロリアンハットがちょこんと乗せられていて、顔の中心にそびえ立つ高い鼻はそのキャラクターの特徴を見事に捉えている。それは童話の中に出てくるピノキオそのものだった。
「これは……夢か?」
あまりにも信じられない出来事が次々に起こったので、真司はこれが夢ではないかと疑った。が、どうやら夢ではないらしい。頬の痛みがそれを証明していた。ポケットに手を滑らせて、スマホも起動させてみたが圏外だった。
ぴのきおは手を振りながら、まるでスポットライトを浴びた大スター気取りで、こちらに向かって笑顔を振り撒いている。
「ふざけんじゃねー!早くこっから出しやがれ。ブッ殺すぞ!」
ふいに暗がりから男の怒鳴り声がした。
声はまっすぐぴのきおに向けられていて、声の反響具合からして、ここはどこかの室内のようだった。真司は自分以外の人間がいたことに幾ばくかの安堵を得た。
それから、少しずつスポットライトの明かりが浸透していくと、そこには自分と同じような境遇の人間が大勢いた。見たこともない場所だった。白いドーム状の建物の中で皆一様にして不安そうな顔を浮かべている。
広さは200mトラック約一周分。ドアもなければ窓もない、それでいて飾り気のない大きな部屋だ。人数はざっと見渡して60人ほどで、歳は全員10代くらいの印象を受ける。その中には美代奈と達也の姿もあった。
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