追悼

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「それでさっきの話に注意深く耳を傾けてたんだけど……」 彼女にしては珍しく歯切れが悪い。真司はおとなしく次に続く言葉を待った。 「裏表がなさすぎるというか……。なんか幼い子供みたいな。そんな感じがしない?」 どちらかと言うと、レイナの言ってることのほうが意味が分からない。子供だからなんだというのだろうか。 真司が返答に困っていると、レイナは諦めたようにため息をついた。 「ごめんなさい。いきなりよく分からないこと言い出して。私がいったことは全部忘れて」 レイナはそれっきり唇を固く閉ざしてしまう。この件に関して話すことはもう何もないという意思の現れなのだろうか。 「まあ、レイナの言いたいことはなんとなく分かるよ。うん、確かに泉は……」 真司は適当に話を合わせて、レイナに機嫌を直してもらおうとした。しかし……。 「嘘ね。真司は絶対に私のことを意味の分からない女って思ってる」 悲しいかな、真司の浅はかな目論みはものの一瞬で看破されてしまう。数十秒前、彼女が自分自身のことをなんと言ってたのかを今さらになって思い出す。 「ち、違うぞ。確かに、さっきの話はちょっと分からなかったけど、俺は別にレイナのことを意味の分からない女だとは一言も……」 「じゃあ、私の言ってたことが意味が分からないっていうのは認めるんだね。もういい」 レイナは背を向けると、さっさと部屋の隅へと歩いていってしまう。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺の話を最後まで聞いてくれ!」 このあと、レイナのご機嫌を取るためだけに、貴重な残り時間を全て使い果たしてしまったのはいうまでもなかった……。
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