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桜木真司にとって、藤井達也という存在は気の許せる数少ない友人であった。
元々、人付き合いの苦手だった真司はクラスに馴染めず、孤立していた。そんなとき、初めて声をかけてくれたのが他ならぬ達也だったのだ。
だが達也は、クラスのみんなから頼りにされているリーダー的な存在であるため、真司と違って人望も厚かった。それにより、真司はなんとなく彼を避けていたのだが、少しずつ話をしていくうちに仲良くなった。
「気晴らしにでも、このままゲーセン行くか」
達也は未だに今日のことが納得いかないようで、口を尖らせていた。引き締まった体躯。凛々しい顔立ち。今日も日で焼けた小麦色の肌が、口元から覗かせる白い歯を際立たせている。
「ゲーセン?よくそんな元気あるな……。俺は帰って二度寝したいよ」
でも達也の言うとおり、今日は散々な一日だったなと真司は思う。
今朝は今年入学してくる高校一年生のために朝の九時から登校を義務付けられ、午前中いっぱいまで肉体労働を強いられた。主に体育館にパイプ椅子を並べるだけの単純な仕事だったが、これが意外とこたえた。
袖を捲ると、今もぱんぱんに膨張した腕がその過酷さを物語っている。
「明日は確実に筋肉痛だな」と達也が肩をすくめてみせた。
準備を終えたあとは各自、自分のクラスに集まって、抜き打ちテストを行った。
予め、筆記用具を持参と指示されていたが、まさかこんな意図があるとは思ってもみなかった。おかげでテストの結果は散々だった。
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