束の間の日常

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◇◇◇◇◇◇ 「いやー、それにしてもまさか茜ちゃんが隣町の学校に通ってたなんて。すごい奇遇だよな。ささ、遠慮しないで飲んで飲んで」 「私も男ばっかで寂しかったの。これからは女同士で仲良くやろうね。あっ、茜って呼んでいい?」 なんだこれは。少し前までここはお通夜状態だったはず。なのに、何でこいつらこんなに元気なんだよ……。 はじめ、あんな大人しそうな少女が、あの茜だと聞かされたときは自分の耳を疑った。 前に会ったときの彼女はもっと派手な印象を受けた。髪の毛は茶を通り越したベージュ寄り、唇も塗り固めたように真っ赤で、何よりもまつ毛が逆立っていたはずだ。 それが今はどうか……。髪の毛の色は日本人が本来持つ清楚な黒髪。唇は紅をさした桜色。そして、あれだけ自己主張していたまつ毛は今ではその勢いを失っている。 服装も下がジーパン、上がパーカーというシンプルなもので、それなりに使い古されているようだ。 決して美人と言える容姿ではないものの、前回の彼女の格好を見てしまっているだけに何故か好感が持ててしまう。 例えるならば、好きな人のために精一杯尽くそうとする素朴さと愛らしさを兼ね備えたような感じとでも言えばいいのだろうか。
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