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「いってー!なにも鞄で叩くことないだろ!しかも角で。耳から脳ミソが飛び出るかと思ったぞ」
真司は小さくうずくまりながら、美代奈を見上げた。
筋の通った鼻。柔らかそうな唇。そして真司を見下ろす切れ長の目。さらに中学まで短かった髪の毛は、今ではもう鎖骨あたりまで伸びていて、実年齢より幼く見える。
「ん?それがお望みなら叶えてあげてもいいけど」
そう言って、美代奈はこれ見よがしに腕捲りをすると、続けて指の骨をボキボキと鳴らす。真司は口端をひくつかせながら「遠慮しときます」と一言謝った。
もちろん、もっと普通でおしとやかな女子相手ならば、真司もここまで卑屈になることはなかった。しかし、相手はあの美代奈なのだ。
特に先ほど垣間見せた女子とは思えない野蛮な言動は、彼女のこれまでの経歴に起因しているところが大きい。
美代奈はこれでも柔道の有段者。小学生から始めた地区の柔道教室で見事才能を開花させ、中学では三年連続で全国大会出場を果たすという快挙を成し遂げた。
高校に入学してからは、本人が学業に専念したいということで、部活にこそ所属してないが、今もその実力は健在だ。
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