束の間の日常

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「ん、何?」 真司は廊下の照明をつけようとする手を一旦休め、茜に向き直った。 畏まった様子で茜は言う。 「あの、前にも言ったんですけど、もう一度言わせてください。あたし、あの時、嬉しかったです。みんな助けてくれなかったのに真司さんだけはあたしを助けてくれた。本当にありがとうございます」 まさか、また頭を下げられると思わなかった真司は返答に困る。こんなとき、どんな言葉をかけたらいいか分からない。 真司があたふたしていると、顔を上げた茜がこれを機にさらに踏み込んでくる。 「今日、あたしのこと見てビックリしたでしょう?もうあの格好は卒業したんです。元々、高校デビューのつもりで始めた格好でしたがやっぱりあたしには合わなかったんです」 これについては真司もうんうんと同意せざるを得なかった。 「でも今のあたしを見てどうですか?メイクも服も少しでも動きやすいように今はこんなんですけど……。やっぱり真司さんはそういう女って嫌いですか?」 暗がりの中、彼女の鬼気迫る表情が少しだけ怖い。顔に息がかかりそうな勢いだ。 だから真司は正直に答えた。 「そ、そんなことないよ。俺はどちらかというと、気取らない格好のほうが好きだし、その髪もすごく似合ってると思うよ」 ……と自分で言っておきながら、何だか恥ずかしくなる。
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