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呆れた表情を浮かべた友人が、あたしよりほんの少しだけ先で立ち止まってこちらを見つめている。
彼の背中越しに見えるのは、先を歩く他の友人達と、あの人と、あの人の視線を一身に受けるあの子の姿。
ズボンのポケットに手を入れたままで立ち止まり、こちらを見やる彼の瞳は、どこまでも優しいもので、沈みかけていたあたしの心に深く突き刺さっていく。
ー あの人ならば
「なんだ…………て、そうだよね」
「お前な、待っててやった俺に何だは、ねぇだろ」
ハァ、と大きなため息をついたあたしに、彼はほんの少し眉間に皺を刻みながら「お前さ」とぼやき、コツン、コツンと足音を立てながらこちらへと近づいてくる。
「その泣きそうな顔、あいつに見せるつもりなのか?」
彼がそう呟いたと自覚した次の時。
グッ、と身体が腕を強めに引かれる。
空気が、動く。
「俺じゃ、ダメか?」
「………な、に」
顔が熱いのは、慣れないことをされたから。
ドクドクと胸が大きな音を立てるのは、ふいの行動に驚いたから。
「俺なら、そんな顔させない」
抱きしめられた温もりも、
耳に響く低い声も
嫌じゃないのに。
あたしの希望は叶わないのだと、
言われたような気がした。
悲しい瞳をして立ち止まった彼女の視線の先には、彼女の友人と笑い合うあいつの姿。
「その顔、見せてやればいいのに」
小さく呟く俺の声は、冷えた空気に溶けて消える。
目を閉じて、立ち止まった彼女の表情は、今にも泣き出しそうなのに、それを綺麗だと思うだなんて。
「やっぱ俺、馬鹿なのかね」
歩みを止めた彼女を待とうと、自分も目を閉じ少し離れたこの場へと立ち止まる。
「………なんで」
小さく聞こえた声に、目を開けるとそこには、自分以外の誰かを想い立ち止まる彼女の姿。
冬の陽射しの中に佇む彼女の唇が微かに動く。
その言葉すら、聞き逃さずに聞いてしまう自分に、思わず笑ってしまうけれど。
冬の訪れを告げる日常の中。
それでも君の声だけは聞こえるだなんて。
「どうかしてる」
懐かしい匂いがした。
けれど、それは同時に叶わない想いだと告げるものでもあった。
あたしたちはまだ、自分の一番大切な人へ、辿り着かなくて。
誰かが傷つき、誰かを傷つけながら、今日もまた次の季節を迎えに行く。
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