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直撃すれば鈍器で殴るに等しい衝撃を与えられただろうが、女は地面に這いつくばるようにしてそれをかわした。女の長い髪と、マキシ丈のワンピースが派手に波打つ。
次の瞬間起き上がった女は、その顔に焦りを浮かべながら手に石を握っていた。握り拳ほどの大きさだ。女が石を振りかぶった。莉櫻が思わず目を閉じると、風の音がゴッと耳の横を通過する。
「うわっ……」
突然背後で悲鳴が上がった。
驚いて振り返ると、逃げ出した子供を追いかけようとしていた仲間が、背中を押さえて崩れ落ちるところだった。
「怜(れい)!」
ぼとりと、彼の足元に石が転がる。それは先程女が握っていた石だった。狙いは自分ではなく、あの子供を追おうとしていた怜のほうだったのだ。莉櫻が振り返ったときにはもう、女は忽然と姿を消していた。
「くそっ……おい怜、大丈夫か」
いなくなった女を追う前に、倒れ込んだ仲間に駆け寄る。どうにか上体を起こした怜は痛そうに背中を押さえていたが、大丈夫と返事をした。
「それよりあの子を追ってください、莉櫻。厄介なことになる前に」
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