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小学四年生の夏樹は、親の意向でまだ携帯電話を持たされていなかった。兄にはその時分から持たせていたというのに、こんなところでも夏樹は普段からできのいい兄と差別されていた。仕方なく家の電話を使おうと、靴を脱いで廊下に上がりかけたとき――ピンポーンと軽薄な電子音が響いた。たったそれだけで、夏樹はすくみ上がって転びそうになる。
どうにかこらえて、玄関の隅にある踏み台を引っ張り出し、夏樹はおそるおそるドアスコープを覗いた。
「うわぁっ……」
外に立っていた人物を見て、夏樹は悲鳴を上げて腰を抜かした。踏み台から落ちて尻餅をつき、本当に腰を打って動けなくなる。
ドアの外に立っていたのは、先程女性を襲っていた、茶髪の男だった。男は夏樹の悲鳴を聞いて呼びかけてきた。
「そこにいるんだな。話がある」
夏樹は、相手に見えるはずもないのにぶんぶんと首を振った。
「ない。ぼくはない!」
ドン! と、ドアが殴られたように悲鳴を上げた。夏樹もまたひゃあと情けない声を上げる。
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