鬼憑き

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「俺はあるんだよ。おまえの胸元の印(しるし)、取ってやるからこの鍵を開けろ」  なんのことだかさっぱりわからなかった。印など夏樹は知らない。 「おまえ、あの女になにを願った」  ガチャガチャと乱暴にドアノブが回される。いまにもドアを破って突入してきそうだ。 「胸元に鬼(おに)憑(つ)きの印を受けただろう。自分の胸をよく見てみろ」  そこにきて、夏樹は先程、女性の手が自分の胸に当てられたことを思い出した。その瞬間に生じた、嫌な鼓動のことも。 「その印は、獲物の印だ。おまえの胸にあるのは、いまはまだ、薄い紫色のアザか」  最後の言葉は問いかけだった。夏樹がなにもいえないでいると、再びドアが悲鳴を上げる。 「自分の胸を見て答えろ!」  恫喝まがいの要求に、夏樹はびっくりして体操着の襟をぐっと広げ、自分の胸を見下ろした。 「あ……」
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