鬼憑き

6/39
前へ
/313ページ
次へ
 いいよとうなずいて、警戒心もなく女性が手招くままベンチまで移動する。公園には、夏樹とその人以外誰もいない。 「で、どうしたの?」  腰を下ろしてから、改めて女性が聞いてきた。  そこからは自然と運動会のリレーで転んだ話になり、それから兄のことを話した。自分よりなんでもできる雪斗のことが気に食わないと、夏樹はすねた。  初対面の相手になにをいっているんだろう、とさすがに思った頃、女性は小さく笑った。 「わたしね、魔法使いなの。あなたの願いを一つだけ叶えてあげる」 「え?」  なんの脈絡もない話に、夏樹は首をかしげた。その夏樹の頬に、彼女は手を添えてきた。水に浸していたみたいに、冷たい手だ。 「願いは、お兄さんに勝つことでいいかな?」  なにをいっているのだろうと思った。いくら夏樹が子供でも、もう四年生だ。魔法使いなどいないことはわかっている。  でも、揺れる紫の瞳を見ているうちにどうでもよくなってしまう。  こくりと、夏樹はうなずいた。
/313ページ

最初のコメントを投稿しよう!

396人が本棚に入れています
本棚に追加