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いいよとうなずいて、警戒心もなく女性が手招くままベンチまで移動する。公園には、夏樹とその人以外誰もいない。
「で、どうしたの?」
腰を下ろしてから、改めて女性が聞いてきた。
そこからは自然と運動会のリレーで転んだ話になり、それから兄のことを話した。自分よりなんでもできる雪斗のことが気に食わないと、夏樹はすねた。
初対面の相手になにをいっているんだろう、とさすがに思った頃、女性は小さく笑った。
「わたしね、魔法使いなの。あなたの願いを一つだけ叶えてあげる」
「え?」
なんの脈絡もない話に、夏樹は首をかしげた。その夏樹の頬に、彼女は手を添えてきた。水に浸していたみたいに、冷たい手だ。
「願いは、お兄さんに勝つことでいいかな?」
なにをいっているのだろうと思った。いくら夏樹が子供でも、もう四年生だ。魔法使いなどいないことはわかっている。
でも、揺れる紫の瞳を見ているうちにどうでもよくなってしまう。
こくりと、夏樹はうなずいた。
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