同期の彼と思い掛けない夜

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黒澤くんに認められたい。 わたしのその想いは自覚しているよりも強かったらしく、毎日がむしゃらに働いていた。 新しい知識を、余すことなく取り入れようと、目を爛々と輝かせていた。 そんな中、受けた1本の電話。 『昨日頂いた工事照会、今現場に来てるんですけどね』 工事照会の現場担当者の方だった。 『線路図面には設備がある風になってるけど、実際には何もないよ』 「えーっと……それは、要はどういった回答ですか……?」 わたしは意味をよく理解出来ていなかった。 『だから、設備打つしかないんじゃない。設備構築要で返しとくから』 「設備を打つ……?」 『わかりますかー!? 今日、黒澤くんは?』 電話相手の態度にショックを受けたものの、仕方なく黒澤くんに代わってもらった。 黒澤くんは当然の如く、慣れた口調ですらすらと受け答えし、電話を切った。 何も、あんな言い方しなくたって……そりゃあわたしが無知なのがいけないけれど、配属されて来たばっかりで…… 俯くわたしに、思い詰めていると見て取れたのだろう、黒澤くんが明るく声を掛けてくれる。 「気にすんな! 現場担当者は皆あんなもんだから」 「設備を打つって……」 「設備を作るってこと。それが設備構築だよ。俺の説明が足りなかったな、悪い。まぁこの仕事は、習うより慣れろ的な所があるからなぁ。榊なら大丈夫だよ」 黒澤くんがわたしの背中を軽く叩いて笑った。 普段のわたしなら、イケメンに触れられた動揺が出そうなものだが、それどころではなかった。
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