光の球体

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 淫らなジョーカーと想作と美鈴の最強コンビが対決する数十分前の出来事である。  想作の叔父・新城慶次は隅田川沿いにある古いビルに住み、上階の窓から伝書鳩が上空を飛び鳩小屋に戻って来るのを見て、ベランダに愛犬と一緒に出て伝書鳩が舞い降りると足から紙片を外した。 『OK。グッドラック』  慶次はそれを読んでひとまず安心したが、空には異様な雲が渦巻いて稲妻が何度も光り、愛犬のシリウスが心配そうに吠えたので頭を撫でて話しかけた。 「想作なら大丈夫だ。挟み込まれるルールを活用して生き残るさ」  ゴールデンレトリバーのシリウスの体毛が静電気で逆立ち、触れた手がビリビリして慶次が高層ビルの聳える首都圏を眺め、強力な磁場が発生して巨大なプラズマのスクリーンが天空をドーム状に覆い、堕落した人間を裁く判決が下されたと嘆く。 「宇宙から観ると、文明ってのは毒が湧き出す拠点だ。だから数千年に一度、太陽が都市を滅ぼして人間を焼き払う」  ビルの一階はガレージで、二階にダイニングルームとバスルームがあり、三階と四階は研究室がメインで屋上には小さな天文台が設備されている。 「俺の予想では30年後だったのだが」  銀髪の生え際に白丸の痣が刻まれ、慶次は葉巻きに火を付けて広いデスクの上の資料に目を移し、皆既日食の連続写真と太陽のコロナの発生映像、太陽フレアからの太陽風、磁気嵐の分析、オーロラと稲妻の写真を神妙な顔付きで見回す。 「コロナの爆発により太陽フレアが起き、月をレンズにして凄まじい太陽風が地球を襲ったんだ。わかるか?シリウス」  デスクの真ん中に太陽と月と地球の位置を表す模型があり、慶次はそれを示して床に座っているシリウスに語りかけたが、稲妻の轟音に驚いてデスクの下に隠れる。 「始まるぞ」  慶次がそう言って螺旋階段を上がるとシリウスもすぐに追いかけて来て、一緒に屋上の天文台に向かう。  その数分後に中央区の私立中学校の体育館に光の球体が落下し、更にエネルギーを蓄えた渦巻く雲の砲台から次々と光の弾丸が発射され、全部で十二個の光の球体が首都を襲い、十二人のジョーカーが誕生した。
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