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最初の犠牲者
不思議な死者が発生する数時間前、科学クラブの三年生B組、林茂は皆既日食の写真を撮る為に校舎の屋上で一眼レフカメラのセッティングをして、173年振りに東京近郊で観測できる金環日食の瞬間を心待ちにしていた。
授業が始まる前に先生も生徒も何人か屋上に集まり、三年C組の美鈴も想作も少し離れた位置で眺めている。
想作は太陽よりも雲の様子が気になり、青空に雲が渦巻いて時折赤と青い稲妻が走るのを一人でぽつんと注視した。
美鈴は女子の友だちと一緒に科学クラブのカメラの周辺に集まっている。
「神崎さん。目を痛めますからこれ使ってください」
「うん。サンキュー」
科学クラブの部長・林茂が日食グラスを美鈴に渡し、他の生徒にも配って太陽が欠け始めると林茂は空を見上げながら何枚も写真を撮った。
[太陽が月に隠れ、光がリング状に見える金環日食の連続写真。]
生徒も先生も皆んな感動して暗くなった神秘的な空を見上げたが、暫くして写真をチェックしている時に林茂は突然目眩でもしたかのように倒れた。
「どうしたモバヤシ?」
両隣りにいた科学クラブのメンバーがそれを見て声をかけた。メガネで痩せっぽちの林茂は後輩からも、モバヤシとタメ口で呼ばれている。
その時は皆んな病弱なモバヤシが貧血でも起こしたのかと思っていた。そして授業が始まりそうなので解散し始める。
美鈴も気にせずにその騒動をチラッと見ただけで、階段を下りようとしたが、その時に想作が真剣な表情をしてその様子を伺っているのを見ている。
「探偵かよ?」と美鈴は元彼を見て呟いた。と言っても、付き合ったのは一週間だけ。一方的に迫られて渋々付き合ったが、すぐに美鈴がふったのだ。
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