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【01】
部屋の中に段ボール箱がたくさん置かれている。
槇村直人[まきむら なおと]は
新しく我が家となった部屋で
思わず深呼吸をした。
ほぼワンルームと変わらない、
狭苦しい部屋ではあるが
新鮮な気持ちに変わりは無い。
直人は段ボールの解体をする前に
床でゴロリと横になった。
今まで家族と暮らしていた上に
自分の部屋ですら
必ず誰かと一緒だったので
独りで居るのは久しぶりだった。
そんな彼のスマホが着信を知らせる。
画面を見ると
“着信者:母”と書かれていた。
「もしもし、母さん?」
《アンタ、荷物は広げた?》
大事な一人息子が旅立ったと言うのに
第一の心配はそこらしい。
「あぁ、まぁ半分くらいね」
直人はガムテープが貼られたままの
段ボール箱を見上げながらさり気無く応える。
アレ、結構剥がすの苦労するんだよなぁ。
《そう、なら良いけど。
ところでアンタ、部屋にある“アレ”
本当に持ってかないのかい?》
「…持っていかない」
直人の声から感情が抜けた。
すると、母親のタメ息が聞こえる。
《そうかい。
ま、いつでも送れる様にまとめてあるから
必要になったらいつでも言って》
「もう必要にならないよ、絶対」
《アンタね、もうそろそろ…》
「ゴメン、母さん。忙しいからまたあとで」
直人は半ば強引に電話を切った。
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