プロローグ

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プロローグ

「健人、おいしい?」 「うまいよ」  彼はスマホで俺の食べる姿を撮った。 「いいからおまえも早く食えよ。じゃないと全部食っちまうぞ」  彼は頬杖をついて、うっとりした目で俺を眺める。 「いいよ別に。不思議だなぁ。そのサンドはいったいどこに消えちゃうんだろ。ぼくも一度きみの体の中を旅してみたいよ」 「どこにって、胃袋に決まってんだろ、それから小腸にいって、だい」 「やめて。夢がない」 「いいから、早く食わないと三限始まるから」 「はあい」  彼はパンの中からトマトをつまみ取ってパクりと口に入れた。肩をすくめてニッコリ笑う。 急にやってきた秋が過ぎ去り、冬が始まったばかりの12月。  親友が恋人に変わった。  二年前のあの日から、俺にとってかけがえのない存在。俺は彼のことがずっと好きだった。  なのに俺は彼を随分惑わせた。そして傷つけ、ひどく辛い思いをさせてしまった。すべては俺の不器用さと臆病さにつきる。  だけど彼は負けなかった。俺なんかよりずっと強かった。そして俺たちは決して諦めなかった。だから今日もこうして、キャンパス内にあるカフェで、俺はBLTサンドを頬張る姿を彼にじっと見られることになる。  俺たちはその時大学一回生だった。同じ大学、同じ学部の同級生。それが俺の恋人である。  つい数日前までは、ずっと友達同士のままで終わると思っていたのに、いったい何がどう作用したのだろうか。  最初のきっかけも、なんだったのかは覚えていない。ぼんやりした何気ない日常の中で、親友同士だった俺たちの歯車が狂い始めたのは、その年の秋学期が始まってからだった。
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