第一章 絶望プリズン

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* FK  水崎崇人(たかひと)は、人工芝の上に白いスプレーで描かれた×印の上に、十六号のサッカーボールを置いた。  U17日本代表の青いユニフォームが、サッカー選手としては小柄な身体を包んでいる。頭上には秋の青空が広がり、潮の匂いが混じった海風が頬を撫でる。  いったんボールから手を離し、立ち上がりかけて、再び膝をついた。  ベンチからボールが見えないように身体で隠しながら、ボールを三十センチほど前へ、よりゴールに近づけるように移動させる。 「せこいぞ、水崎くん」  すかさず声が飛んできた。崇人は、ちっと舌打ちして、グラウンドに膝をついたまま、声のした方に顔を向けた。  グラウンドの外にある屋根付きベンチの下に、軍服を着た二つの人影があった。一人はベンチに座り、もう一人は傍に控えるように立っている。
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