第二章 墜落イレブン

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 芽衣が言葉をなくした理由を、老人は別の意味で受け取った。 「ああ、私が日本語をしゃべれることに驚いているのかな? 先の大戦で、私は家族と一緒に筑豊の炭坑で働いていてね。小さな穴にも入れる子供は重宝されたものさ。日本語はそのときに学んだのだよ」  老人の話は少女の耳を素通りしていた。目の前で行われているおぞましい〝実験〟に、ただ震撼(しんかん)していた。  性交をして運動能力を上げる? そんなトレーニングが存在するのか? どんな理論で?  白衣を着た若い女性が鉄格子にある中扉をくぐり、奥へ入っていった。手に注射器の入ったステンレスのトレーを持っている。  石田優美の右肩を白い脱脂綿でアルコール消毒し、針を刺す。シリンダーが押され、黄色い薬液が少女の肉体に注入されていった。
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