第三章 脱獄キックオフ

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 囚人との恋愛はもちろん許されることではない。特に彼女のような重職にある者には、大きなスキャンダルとなる。特殊な事情で収監された外国人ともなればなおさらだ。  それでも手を出るさざるを得ないほど、少年は魅力的だった。  かつて小説家の稲垣足穂は「美少女をギュッと搾ったものが美少年である」と述べた。もし彼女がその言葉を知れば、激しく首肯(しゅこう)したに違いない。  薄暗い闇に浮かぶ白い肌、サッカー選手にしてはきゃしゃな肢体、少女のようにほっそりした顔立ち……異国からやって来た少年――七瀬晶は一目で彼女を虜にした。   白い腕がナイトテーブルの上に伸びる。ワインボトルを引き寄せ、瓶の口から直接、生ぬるい液体を飲む。  両手で少年の頬を挟み、口移しで流し込む。重なった唇から赤い液体がこぼれ、平らな胸に垂れていく。
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