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唇の端についた水滴を、所長が手の甲でぬぐう。窓外の星明かりが照らし出す裸の上半身は、芸術的なヌード写真のように完璧な造形を誇っている。
所長の白い手が優美に動き、手話を始める。
『脱獄方法について、沢村は何か言ったか?』
小さな頭がけだるそうに左右に振られた。何も聞いていない――答えはいつも同じだ。ベッドの上を教室にして、少年は手話を理解するようになっていた。
所長は黙って七瀬晶を見つめた。
切れ長の鋭い眼差しは、幾多の犯罪者の嘘を見抜いてきたが、目の前の異国の少年はけっして心を読ませない。そんなミステリアスなところも、七瀬晶が自分を魅了する理由だった。
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