第一章 絶望プリズン

3/97
前へ
/473ページ
次へ
 ベンチに座り、黒革のロングブーツの足を組んでいるのは、二十代の半ばぐらいの若い女性だ。  艶光りする黒レザーの軍服のウエストをベルトで締め付け、ゆったりした乗馬服のようなグレーのズボンをはいている。上着の肩には将校であることを示す徽章(きしょう)がついている。  黒い羅紗地の軍帽から伸びる艶のある長い黒髪。すっと通った鼻筋、切れ長の怜悧な眼差し、美男美女を何世代も掛け合わせたような貴族的な顔立ちを、けだるそうにグラウンドを向けている。  みなさん、ご紹介しよう。この刑務所の独裁者――所長である。名前は知らない。ただ「所長」と呼ばれている。それ以外で呼ぶことは許されない。 〝総統〟と言われる国家元首を仰ぐ、特殊な国家形態をとるこの国において、七大門閥の一つに属する名家の出身。頭脳明晰、容姿端麗、軍大学校を首席で卒業したエリート中のエリートだ。
/473ページ

最初のコメントを投稿しよう!

543人が本棚に入れています
本棚に追加