第一章 絶望プリズン

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 名家の出身ではないらしいが、こちらも軍大学校を卒業した超エリート。所長とは刎頸(ふんけい)の仲、竹馬の友、ようは幼なじみらしい。潔癖性で、黒革のロングブーツをいつもぴかぴかに磨き上げている。 「なんのことだい?」  崇人が肩をすくめてとぼけてみせた。 「すぐにボールを元の位置に戻しなさい。フェアプレイでいこうじゃないか」  少年の拳が、体の脇でぎゅっと握られる。  てめー、それはちゃんと訳してんだろうな?  しゃべれない所長が手話で意志を表し、それを日本語に通訳するのが副所長の仕事だ。そう、副所長だ。今、偉そうに命じてるこいつが、この刑務所のナンバー2ということになる。  が、「副所長」などと呼ぶ人間は少年たちの中にはいない。実際には、所長が意図する以上のことを訳している。いつしか、そんな疑惑が持ち上がり、彼らは皮肉をこめてこう呼んでいた――  超訳のクソ野郎、と。
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