543人が本棚に入れています
本棚に追加
「頼みがある」
「交渉には応じないよ。ルール違反は君だからね」
超訳は所長を〝見ず〟に言った。
「蹴る回数を増やしてくれ」
「一回のチャンスに賭ける真剣さが、実戦で役立つ練習になるんだよ」
「ああ、そうかい。わかったよ」
崇人はひざまずき、スパイクの靴紐をほどき始めた。
不可解な行動をとる少年を、所長と超訳が黙って見ていた。
崇人は立ち上がり、脱いだスパイクを肩に担ぎ、くるりときびすを返す。
「どこに行くんだい? 水崎くん、まだ練習の途中だよ」
「やーめた」
手首をぷらぷら振りながら、崇人が背中で答える。
「いくら、俺が多摩川のファンタジスタっつっても、このフリーキックを一発で成功させるのは無理ってもんだ。どうせ失敗するんだったら、最初から蹴らないほうが寝覚めがいいぜ」
最初のコメントを投稿しよう!