第一章 絶望プリズン

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「頼みがある」 「交渉には応じないよ。ルール違反は君だからね」  超訳は所長を〝見ず〟に言った。 「蹴る回数を増やしてくれ」 「一回のチャンスに賭ける真剣さが、実戦で役立つ練習になるんだよ」 「ああ、そうかい。わかったよ」  崇人はひざまずき、スパイクの靴紐をほどき始めた。  不可解な行動をとる少年を、所長と超訳が黙って見ていた。  崇人は立ち上がり、脱いだスパイクを肩に担ぎ、くるりときびすを返す。 「どこに行くんだい? 水崎くん、まだ練習の途中だよ」 「やーめた」  手首をぷらぷら振りながら、崇人が背中で答える。 「いくら、俺が多摩川のファンタジスタっつっても、このフリーキックを一発で成功させるのは無理ってもんだ。どうせ失敗するんだったら、最初から蹴らないほうが寝覚めがいいぜ」
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