ベッド下の女

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-ベッド下の女- 「なるほどね。思い当たることはそれしかないと」 勝手に持ち込んだ安楽椅子の肘掛けに頬杖をつき、いかにも文系らしい黒縁眼鏡の青年がうーんと唸った。 文芸部部長の和佐友康(わさ ともやす)だ。 時城高校、文芸部部室。 今日は部活のない月曜日だが、部長で三年の和佐はいつも自由に部室を使っている。 それを知っている良介は、一つ上の幼馴染に相談しにやって来たのだ。 「視線を感じるっていうのはストーカーかも知れない。告白を断られた彼女がストーカーに転じることもありえる話だね」 「それは俺も思ったけど、実際姿を見たわけじゃねぇし……」 黒髪をスポーツマンらしく短髪にした、精悍な顔が眉をひそめる。 サッカー部に所属する良介は、この季節、帰宅が日が落ちてからになる。 視線を感じて振り返っても、通って来た街灯のない暗い道が見えるだけ。 人影すらも掴めたことがなかった。 そのため、感じる視線も気のせいだと思っていたのだ。 「でも昨日、ついに見てしまったんだろう?」 和佐が安楽椅子をギィと鳴らして興味津々に身を乗り出す。 「それも俺が見たわけじゃねぇけど」 視線を感じ初めて1週間以上たった昨日。 就寝前にベッドの上でスマホをいじっていると、急に姉が部屋に入って来た。 大学三年生の姉は、弟の良介にこれっぽっちも気を使わないので、部屋へ入るのにノックなどしない。 昨日もドアを開けるなり、要件を言おうと口を開いた時だ。 「ひっ、きゃあああ!! あ、あああんた、下!!」 口から溢れたのは恐れ慄いた悲鳴だった。 姉は後ずさりすると腰を抜かして座り込んでしまった。 「ど、どうした?」 姉のあまりの様子に、良介はベッドを降りようと足を下ろす。 ひたっと冷たい何かが良介の足首を掴んだ。 反射的に脚を振り上げた瞬間に見たのは、ベッドの下から伸びた青白い女の手だった。 姉は良介の足元を指差して、必死に口をパクパク動かす。 良介はベッドから距離をとり、姉の座り込むドアのところまで後退した。 部屋が気温が急に下がったように感じた。 自分の心臓がドクドクと鼓動する音が聞こえる。 良介は心の中で3、2、1……とカウントし、意を決してベッドの下を覗いた。
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