443人が本棚に入れています
本棚に追加
/220ページ
-ベッド下の女-
「なるほどね。思い当たることはそれしかないと」
勝手に持ち込んだ安楽椅子の肘掛けに頬杖をつき、いかにも文系らしい黒縁眼鏡の青年がうーんと唸った。
文芸部部長の和佐友康(わさ ともやす)だ。
時城高校、文芸部部室。
今日は部活のない月曜日だが、部長で三年の和佐はいつも自由に部室を使っている。
それを知っている良介は、一つ上の幼馴染に相談しにやって来たのだ。
「視線を感じるっていうのはストーカーかも知れない。告白を断られた彼女がストーカーに転じることもありえる話だね」
「それは俺も思ったけど、実際姿を見たわけじゃねぇし……」
黒髪をスポーツマンらしく短髪にした、精悍な顔が眉をひそめる。
サッカー部に所属する良介は、この季節、帰宅が日が落ちてからになる。
視線を感じて振り返っても、通って来た街灯のない暗い道が見えるだけ。
人影すらも掴めたことがなかった。
そのため、感じる視線も気のせいだと思っていたのだ。
「でも昨日、ついに見てしまったんだろう?」
和佐が安楽椅子をギィと鳴らして興味津々に身を乗り出す。
「それも俺が見たわけじゃねぇけど」
視線を感じ初めて1週間以上たった昨日。
就寝前にベッドの上でスマホをいじっていると、急に姉が部屋に入って来た。
大学三年生の姉は、弟の良介にこれっぽっちも気を使わないので、部屋へ入るのにノックなどしない。
昨日もドアを開けるなり、要件を言おうと口を開いた時だ。
「ひっ、きゃあああ!! あ、あああんた、下!!」
口から溢れたのは恐れ慄いた悲鳴だった。
姉は後ずさりすると腰を抜かして座り込んでしまった。
「ど、どうした?」
姉のあまりの様子に、良介はベッドを降りようと足を下ろす。
ひたっと冷たい何かが良介の足首を掴んだ。
反射的に脚を振り上げた瞬間に見たのは、ベッドの下から伸びた青白い女の手だった。
姉は良介の足元を指差して、必死に口をパクパク動かす。
良介はベッドから距離をとり、姉の座り込むドアのところまで後退した。
部屋が気温が急に下がったように感じた。
自分の心臓がドクドクと鼓動する音が聞こえる。
良介は心の中で3、2、1……とカウントし、意を決してベッドの下を覗いた。
最初のコメントを投稿しよう!