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目を開けると、黒いパンプスが視界に映った。
ゆっくりと顔を上げる。
それはやはり、望んだ人ではなかった。
『今、処置をしてもらっています。』
処置?
その言葉が棘を持つ。
返す言葉もなく、再び俯くと、小さな溜息が聞こえた。
『来てくださいと、言ったつもりでは有りませんでした』
嫌味なのだろうか、温度のない声。
『それでも、姉にとっては良かったんでしょうね。……来てくださって、ありがとうございました』
本当に感謝されているかは疑わしいが、どうでも良い。
最後の最後に滑りこんで、姉の最期の言葉を奪ったのだ。恨まれたっておかしくない。
冷んやりとした廊下の長椅子から動こうとしないリョウに業を煮やしたのか、「葬儀社に電話しないと」と独り言のような声がした。
そこでやっと、ナオの付き添いがこの妹だけであることに思い至る。
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