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『娘と結婚する気は無いのかね』
もう顔は忘れたが、小柄ながらも威厳のある……いや、威厳を出そうとしている様子だったのを覚えている。
まだ若かったリョウが言葉に詰まると、ナオがすぐさま助け船を出した。
『私がその気になれないのよ。仕事もこれからだし』
確かに2人がいたのは大きな出版社が始めた予備校で、
これから首都圏のみならず関西にも進出してゆこうとしていた。
出航したばかりの大きな帆船にでも乗っている気分だった。
ナオは中途採用ながらも企画運営能力は高く、
大学出たてのリョウを叱咤激励しつつ優秀な講師や学生の確保にかなり貢献していた。
しかも私生活では洋楽それもハードロックと酒が好き。
来日したバンドのコンサートでノリノリに踊ってはバーで明け方まで飲み、帰ってシャワーを浴びて出勤するという、豪快な一面の持ち主だった。
そしてその嗜好はリョウにもピタリと合ったのだ。
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