第1章

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座敷に戻る道すがら、俺はたかしに訊ねた。 「あのさ、俺、芸能人になるんじゃなかったっけ?」 「ん?ああ、それね。お前確か「車学(自動車学校のこと)があるから」ってオーディション受けなかったじゃん」 「……そうだっけ?」 (確かに、車学サボってばかりで何も進んでないわ) 「まっ、お前らしいよな」 「あ、あとさ、沙紀さんどうなった?俺、沙紀さんと結婚してないの?」 「してねーし。俺もお前も未婚だよ」 「まじ?」 「沙紀さん、子供3人居るってさ。勿体なかったねー。お互い好き好き光線出しまくりだったのにね。告白すれば確実だったのに。ああいう時は、男が行かないとねー」 「そっかあ……」 胸が締め付けられるようなショック…… 「俺、告白しなかったの?」 「ああ、確か車学行くって」 「また車学!?」 (車学どんだけ優先順位高いんだよ……) 「ははは!本当、お前らしいよ」 そうこうしているうちに座敷に戻った。 座敷の入り口の看板には、高校の名前とクラス、同窓会と描いてあった。 「よう!あゆむ、起きたか」 座敷の入り口でばったり会った男が声を掛けてきた。 「えっと、誰……?」 この恰幅のいいオヤジ…… 「ひっでーな!高橋だよ、忘れたのか?一緒に釣りに行ったろ」 「あ、あ~。変わったな」 たまに釣りに行く仲間だ。まったく気がつかなかった。そう言われて見れば面影はある。 「いやいやいや、お前の方が変わっただろ」 「そうだよ歩くん、わたし好きだったのに」 知らないおばさんも参加してきた。何となく見たことがあるような気はする。 「はは……」 俺は苦笑いした。 どうやらドッキリでは無いらしい。 本当に20年すぎてしまったようだ…… その間の出来事が思い出せない。俺は20年何をしていたのか……
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