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日本海に浮かぶ小さな島である。島の周囲は100キロメートルほど。扇を広げたような形状である。
日本本土からまるで背を向けるかのように、ちょうど扇の根元のように見える箇所には切り立った崖が続く。
西側の、扇を広げた先の部分の海沿いに商店や家屋が扇の縁取りみたいに連なっている。
大陸を睨むような恰好で広がる町は、さながら外からの敵襲に備える砦のようでもある。
民家の玄関前に設けられた風除けの木塀の列は、巨大な盾と見えなくもない。
扇形の中央部分には町役場や学校などが集中し、北側からも南側からも人が集まりやすいエリアになっている。
人口は四千人ほど。
バスは通常一時間に一本程度あるが、通勤通学時間帯は多少本数が増す。
中央にあるバスターミナルから、中央と北側を往復する北路線と、南側を往復する南路線がある。日に三本ほどは北と南を貫通して縦断するバスも走っている。
町の中心部から南に少しずれた場所に、島で唯一の高校である住神高校がある。
築40年は経過している鉄筋コンクリート造の校舎は、日本海から直接吹き付ける容赦ない潮風に侵食され、所々にひび割れが目立つ。
学校の正面には生徒御用達の弁当屋とパン屋がある。この島にはスーパーもコンビニもない。中央地区、南北の地区にそれぞれむかしながらの商店街がある。
商店街といってもアーケードのあるような都会風のものではなく、何軒かの店が寄り集まっただけの、ひっそりとしたものである。
魚介類が豊富な島だ。他の離島と違わず漁業を生業とする家が多い。南地区の奥地には養豚場と養鶏場があるから肉に困ることもない。ただ、牛はいない。
ほとんどの家は庭先で野菜を栽培している。専業の野菜農家は数軒あるが稲作は行われていない。塩の精製を行っている家が二軒ほどあり、住神島の塩として本土では人気があるらしい。
足りない食材は本土との間を日に二往復しているフェリーが運んでくる。
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