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「だらしないわ。大人のクセに。じゃあ、二人で力を合わせて十五分で片を付けましょう。少々きついけど」
「勇ましい女だな。レオという名前にぴったりだ」
「馬鹿にしてる?」
「まさか。頼もしいって言っているんだ」
「言っとくけど、この名前、結構気に入ってるから」
「そうか。似合ってるよ」
似合っていると言われ、礼央は自分の頬が赤らむのを感じ、下を向いた。だが一ノ瀬はそんな礼央のはにかみを無視して、
「やるしかあるまい。来年がちょうど千年の年だ」
と口もとだけで笑ってみせた。だが目は決して笑ってはいない。怖いわその顔。そう思ったが礼央は、
「せいぜい頑張るわ。来るべき日に備えて磨いておく」
と答えた。
「そうだな」
一ノ瀬も同調する。
「けど、さっきの言葉は引っかかるなあ、先生」
「何がだ?」
「本性って何よ。あの玉を持ったときの姿は別にわたしの本性じゃないわ」
「さあ? どっちが本性なんだろうな。普段の俺たちと玉を持ったときの姿と」
礼央は静かに首を横に振る。あの顔になったときの自分を、本性だなどと一ミリたりとも思いたくない。
「言葉、間違えないでよ、教師のくせに」
「ああ、悪かったな」
じゃあ俺は行く、と一ノ瀬が立ち上がり、傍らの電気ストーブを消し、コンセントを抜いた。
礼央も立ち上がる。先ほどの睨み合いで生じた血液の沸騰で、寒さはもうすっかり去っている。
心がやけに落ち着いているのを礼央は感じた。探す手立てもなかった人物が目の前にいる。思いがけず近い存在であったことに安堵する。
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