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「言い伝えの最後のくだりを知っているか、礼央」
真っ直ぐに問うてくる祖父の目が怖くて、礼央は小さく首を横に振った。
「安宅家の祖だという人物、名前すらはっきりと伝わっていないが、その人物は自らが描いた絵の中に鬼たちを封じ込めた。だが、どういうわけか知らぬが、まあ、恐らくは術者のレベルの限界だったのだろうが、その人物はこう言ったのだそうだ。鬼を封じ込めた結界は千年持つのだ、と」
「千年…」
鎌倉時代? いや、平安時代かな? 歴史の苦手な中学生だった礼央は、教科書の中身を思い出そうとして首を傾げた。
「逆に考えてみろ。千年しか持たないということだ。封印は永遠ではないのだ」
礼央は目をぱちくりさせた。もしも今が千年前であったなら、人々は安心できていただろう。だが、千年後の人々は、破られるかもしれない封印をどうしたらいいというのか、というあたりまえの疑問が湧く。
祖父が、静かに告げた。
「そしてもうじきその千年がやってくる。そして安宅家にはもうひとつの言い伝えがある」
きょとんとした顔で礼央は祖父を見ているしかなかった。
「千年を見据えた頃、龍の鱗を持った赤ん坊が生まれたら、その者こそ再び鬼を封じる力を持っている。そしてその者は二人いる。龍の両目を包んだ鱗は二つ」
「それは、龍の片目?」
祖父の手の中にある鋼色の玉を、礼央は指差した。
「恐らく」
「じゃ、じゃあ、おじいちゃんの言ってることが万が一本当だとして、もうひとつはどこにあるの?」
「わからぬ」
「え? だって、鬼が封じられてちょうど千年後に鬼を封じられるような年頃に育ってなきゃならないなら、一族の中の誰かが持っているということになるんじゃないの?」
至極当然な予測だった。
「ああ、そうなるな」
祖父が首肯した。
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