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「お兄ちゃんは? お兄ちゃんは持ってなかったの?」
礼央には三歳上の兄がいる。不安と期待のない交ぜになった顔で礼央は祖父に問うた。だが、祖父は礼央の期待を削ぐように首を横に振った。
「ああ。残念ながら湊人(みなと)は持っていなかった」
「じゃ、じゃあ誰? 昌弘? 倫太郎? 陽介? もしかして亜沙実? 日登美? 千穂?」
思いつくままいとこたちの名前を出してみたが、祖父は残念そうに首を振るばかりだった。
「じゃ、じゃあ、誰が?」
「一族の中には、その昔、この島を出て行き、本土へ渡った者たちもいたと聞く」
「え? じゃあ、わからないじゃない」
「だが、一族の言い伝えは代々守られてきている…はず」
最後の言葉が急に弱々しくなる。
「千年の昔より一族は枝葉を広げてきた。もしかすると母方が安宅家だという流れの中にいるのかもしれない。だが、そうなるともう探す手立てもあるまいよ。向こうからやってきてくれるのを待つしかあるまいな」
「え? じゃあ、おじいちゃんが言っていることがもしも本当だとしたら」
礼央のその前置きを祖父はピシャリと否定した。
「本当の話だと言っているではないか」
礼央はビクッとしながらも続けた。
「じゃあ、龍の目がひとつのまま千年を迎えたら、わたしは、ひとりで鬼と戦わなきゃならないってことなの?」
島内で鬼の絵を探すのとどちらが簡単なのだろうか。ため息が出そうなとき、祖父が、
「これを持ってみろ」
と、例の龍の目を箱ごと礼央の前に突き出した。
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